活動報告

第20回例会卓話「夜遊びとの付き合い方」

2017年12月08日

「夜遊びとの付き合い方」

      NHK横浜放送局局長 小川純子様

ただいま、ご紹介にあずかりましたNHK横浜局の小川と申します。
 本日は、このような貴重な機会を頂きまして、心よりお礼申し上げます。
 今日、お話しさせて頂くテーマ「夜遊び」。師走なので、肝臓をどう労わるかというような話と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、肝臓ではなく、観光の話です。最近、インバウンド、つまり外国人観光客についての話題が、NHKをはじめテレビで取り上げられることが多いので、NHKがニュースや番組でご紹介した情報をまとめて「夜遊び」と題して、お話しさせて頂くことにいたしました。
本題に入る前に、簡単な自己紹介をさせて頂きます。
昨年横浜局着任後、横浜商工会議所会頭の上野孝さんのご推薦を頂き「横濱ロータリークラブ」にも入会させて頂きました。横濱ロータリークラブはそれまで女性が会員になったことがなかったのですが、当時の会長、執行部、上野さん始め皆さまのお力で、入会することができました。その後、NTT東日本さん、日本銀行さん、パナソニックさんと続けて女性支店長、支社長が入会され、今は4人の女子で楽しくロータリークラブライフを過ごさせて頂いています。
たまたま「横浜勤務」となったわけですが、これは私個人にとって本当にラッキーだったと実感しています。神奈川県や横浜は、遊びや仕事で訪れてはいましたが、「ペリー」「マッカーサー」「シウマイ」「元町」「中華街」「みなとみらい」ぐらいのイメージしかありません。横浜局へ異動することになり、「横浜ってどんなところだっけ?」とはたと思いました。
そんな私が最初にご挨拶にうかがった上野さんのオフィスで、横浜・神奈川のイメージがぱっと出来上がりました。上野さんの執務室に飾ってある帆船の油絵を拝見し、「海のお仕事らしい素敵な絵ですね。」と申し上げたところ、「実はうちの先祖が、松山藩の武士でしてね。」とおっしゃいます。「え~っ? 四国の? どうして松山藩の方が横浜に?」と驚く私に、「幕末、横浜港の警備を命じられ、そのまま残って、海上輸送の仕事を始めたんですね。」と教えてくださいました。
およそ160年前、遠い四国から横浜に来て、激動の幕末を乗り越え、横浜に留まる決心をどうしてされたのか? 輸送のお仕事をどうやって始め、どのように成功されたのか? などなど、私はたちまち、上野さんのご先祖様にドラマチックな物語を想像してしまいました。国が開かれたことにチャンスを感じ、決断して居を構え、人生を切り開いてきた方ばかりがいらっしゃったのに違いありません。「横浜とは、激動の中でチャンスに賭けた人々が作ってきた街なんだ」と自分なりに納得しました。横浜はそんな人々の物語、ストーリーが詰まっているように思えて、色々な方に出会うたびにワクワクしています。

さて、前置きが長くなりました。本題の「夜遊びとの付き合い方」ですが、おそらく今夜おいでの方にはご承知の話ばかりかもしれません。どうぞご容赦くださいませ。
まずは、世界の外国人観光客ランキングです。
1位はフランス(8620万人)。人口6700万人よりも観光客の方が多く、さすがです。2位アメリカ(7560万人)、3位スペイン(7556万人)、人口4600万人よりも多い。4位中国(5927万人)、5位イタリア(5237万人)、6位トルコ(3947万人)、これは意外でした。テロの多発なので減っているかと思いきや、相変わらず人気です。さて、日本は世界で16位。昨年、日本に来た外国人観光客は2400万人。5年で4倍に増えたそうですが、意外に悪くないな~と思いました。これを2020年には4000万人にすると政府は目標にしています。ということは5位のイタリアの次、6位トルコを追い越せということです。最近の日本の人気ぶりからすると、この4000万人は達成可能な数字になってきたかもしれません。
しかし・・・次が課題です。日本の観光客の数は世界第16位なのに、一人当たりの消費額が44位。14万3千円ぐらいだそうです。1位はオーストラリアで44万円。タイでさえも17万円。日本で落とされているお金が少ないんですね。もう少し、お金を使ってもらえそうな気がします。
この外国人観光客、インバウンドについて、昨年あたりテレビをにぎわしていたのが、「民泊」ではなかったかと思います。新しい「民泊」施設が増えた、でも、ゴミ出しや騒音などで、周辺の住民とトラブルも増えている・・・などなど。この問題はまだ続いているかと思いますが、最近のテレビでよく取り上げられているのは「ナイトタイム・エコノミー」です。外国人観光客にもっとお金を使ってもらえる方法として、夜の時間帯が注目されているようです。爆買いも一段落してしまうと、やはりエンタテインメントに使いたい。昼は色々と観光するけど、夜がヒマ。夜にもっと遊びたいというわけです。
 確かに私たち日本人も海外旅行に行くときは、夜もキッチリ予定を入れたくなります。せっかく 来ているのだから、目いっぱい遊びたいと。娯楽費を見てみると、日本に来る観光客が使う娯楽費は全体の3%。欧米では8~10%を娯楽費として使っているのだそうです。
日本に来るのは、アジアや日本文化が好きな人、中高年のような気がしていましたが、実は外国人観光客の65%が30代以下というデータもあります。つまり元気で若い人たちが楽しめるエンタテインメントが求められているのではないかとのことです。
これは先日のハロウィーンの渋谷。仮装して楽しむ若い人たちが毎年増えているようですが、今年、渋谷では4万人ぐらいの人が集まりました。ある調査によるとその40%が外国人だったそうです。単に見るだけでなく、こうして自分たちも仮装して楽しんでいます。確かに若い人も多いです。やはり「夜のエンタテインメント」のニーズはありそうです。
さてNHKの番組では「ナイトタイム・エコノミー」の先輩であるイギリスを取材していました。イギリスは90年代初頭から都市圏域に空洞化が起こり始め、その活性化のためにナイトタイム・エコノミー振興に力を入れ始めたそうです。例えばロンドンでは、ミュージカルなどは夜8時からの開演。終わって11時、12時からディナーという方も多いでしょう。もちろんシアター周辺のレストランも深夜まで開業しています。また、美術館や博物館などでも深夜12時までイベントをやったりしているそうです。ワインを飲みながら鑑賞するイベントなどもあるとか。そして去年から、地下鉄を金曜・土曜の夜は終夜運転にしています。
こうした政策のおかげで、ロンドンのナイトタイム・エコノミーは4兆円。72万人の雇用も創出されました。ちなみに日本で外国人観光客が消費するのは全国で3.7兆円あまりなので、ロンドンは夜だけでそれを超えるお金が消費されていることになります。
さて現在の日本では、どのような夜のエンタテインメントが外国人に人気なのでしょうか?皆さんもご存じの新宿にある「ロボット・レストラン」。お客さんの80%が外国人だそうです。それと品川プリンスでこの秋上演していた「和太鼓エンタテインメント 万華鏡」も人気。太鼓演奏だけでなく、プロジェクションマッピングや素晴らしいデザインの衣装なども合わせた極上のエンタテインメントになっているそうです。観客700万人を動員。世界500都市で公演しています。言葉がわからなくても楽しめるノンバーバル・エンタテインメントです。
関東に進出すると、最近話題になっている京都発のエンタテインメント「ギア GEAR」も外国人に人気で、リピーターも続出しているそうです。パントマイム、ブレイクダンス、マジック、ジャグリングなどを組み合わせたもので、これも万華鏡と同じく「ノンバーバル・エンタテインメント」です。また大阪にある「RORコメディ」も最近人気です。これはスタンダップコメディと呼ばれるもので、漫談家が立ちながらトークします。ここでは、外国人が日本で暮らして奇妙に思ったことや愉快だったことをオモシロおかしく話します。
厚切りジェイソンが「why Japanese people!?」と叫ぶような感じでしょうか。なぜ日本に来てわざわざ英語の漫談を聞きに行くのか?と不思議な気もしましたが、日本に来て、同じ外国人の視点で気づいたことをオモシロおかしく聞くことで、共感したり、新しく発見したりすることができるのかもしれません。
「新宿ゴールデン街めぐり」などのツアーも人気だそうです。狭いところで、肩寄せ合って、日本のお客さんとワイワイ飲んだり、はしごするのが楽しいのだとか。野毛も可能性が高いような気がしますね。他には、大阪の「マジック・バー」や京都の「サムライ剣舞シアター」なども人気ランキングに顔を見せています。
意外なところでは、秋葉原にあるフクロウカフェ。本物のフクロウと触れ合えるということで大人気だそうです。
さて、ナイトタイム・エコノミーを拡大させて、もっと日本でお金を落としてもらおう・・・という戦略は悪くはありませんが、民泊でも問題となった近隣住民との調整が問題になってきます。渋谷のハロウィーンでも、夜通しうるさい、ゴミが出てきたない、風紀が悪くなる、など住民や商店街からの声があがります。儲けるチャンスと思いきや、危ないからと早めに店を閉めるところも。観光と住民の生活との軋轢は、神奈川県でも始まっています。
こちらは鎌倉駅の写真ですが、長蛇の列です。江ノ電の人気はうなぎのぼりです。日本人にもですが、外国人にも人気になりつつあります。小田急の方にうかがったのですが、江ノ電は土日になると90分待ちの状態だそうです。ほとんどディズニーランドのアトラクション並みです。こうなると生活している住民の皆さんは本当に迷惑だと思います。鎌倉市の観光協会の方は「鎌倉の人は、もうこれ以上観光客は来なくていいと思っているので、無料wifiや両替所などの対策が全然進まない」と嘆いておられました。これは鎌倉高校前の踏切。漫画「スラムダンク」に出てくるというので、台湾や中国などアジアのファンが記念撮影にいらっしゃるのだそうです。実はこうした「反観光」の動きは、世界ではもっと過激に起こっております。
スペインのバルセロナでは今年7月、覆面をかぶった4人組が観光バスを襲撃し、タイヤを刃物で切ったり、窓にスプレーで抗議文を書いたりしました。この組織は、地中海のマヨルカ島でも外国人の多い飲食店に発煙筒を放り込んだりしています。かなり過激です。彼らの主張は、「旅行客は、住民の生活費を押し上げ、低賃金、長時間労働の観光業で働くことを強いている」というもの。確かに南ヨーロッパは観光業以外に、便りになる産業が少ないだけに、ジレンマでもあります。
イタリアのベネチアでも、今年、2000人ほどの住民が「旅行客は出ていけ」と叫び、人数制限や客船の入港禁止を求めてデモをしました。ベネチアの家賃や物価・がすごく高くなって、住民が外に出ていかざるを得ない状況になっているそうです。怒りも理解できます。
で、NHKでは、またまたイギリスの例を取材。イギリスでは、ナイト・エンタテインメントと住民のメリットを何とか両立させようと、5年前から「パープル・フラッグ制度」というのを始めたそうです。「安心して夜遊びできる街を政府が認定する」というものです。
「犯罪や反社会的行為が抑制されているか」「アルコール対策がとられているか」「交通の利便性が確保されているか」「多様性が確保できているか」などを評価するそうです。ある市では、監視カメラを増やす、酔っ払い客を介抱するセンターの開設、警備ボランティアによる巡回、未成年や家族が楽しめるお店も作る などの施策を行いました。その結果、こうした施策を行う前に比べて、犯罪は半分に減ったそうです。お金が落とされて、雇用が増えて、犯罪が減って、市民も楽しめるならいいよね・・・ということでしょうか。
 これはウォーターフォードという町のPR画像です。パープルをうまく効果的に使っています。地図も「この紫の線で囲まれた地域は、夜、安全に楽しく遊べる地域」とアピールしています。行政・警察・経済界・商工会・市民が一体となって進めています。PR画像には、子供も参加しており、様々な世代が楽しめることを強調しています。
もう一つ「ナイトタイム・エコノミー」対策として、オランダのアムステルダムである試みが始まりました。アムステルダムは、売春の飾り窓やクラブなど、世界的に夜の街として知られています。それでも、酔っ払い、ケンカ、騒音、ゴミなど住民からの苦情は絶えません。そこで業界と行政・市民の調整役として、「ナイト・メイヤー(夜の市長)」なる役職が考えだされました。この方は、ナイトクラブのプロモーターをしていたミランさんという30代男性です。ナイトクラブの経営者やインターネットによる市民の投票で選ばれました。夜の市長は、行政、住民、ナイトライフの経営者たちの間に立って、意見のとりまとめ、調整、政策立案などを行います。お給料は行政とナイトクラブ業界から出ているようです。
ミランさんは、まず騒がしくなりそうな地域に、朝までパトロール隊を配置することにしました。また、アムステルダムは午前4時にクラブを閉店するルールだったのですが、そこから追い出された人たちが、心を鎮めることができずに騒音やトラブルを起こすことがわかったため、クラブを朝7時まで営業させる。朝、太陽が出てくると、心が鎮まるのでしょか???そのかわり、昼間には、近所の子どもたちが遊び場としてクラブを利用できるようにして、クラブが地域に貢献できるようにしたそうです。
この取り組みが評価され、「夜の市長」というポストがヨーロッパ各都市で広がり、昨年は「夜の市長サミット」なる国際会議まで開かれて、様々な取り組みが報告され、情報を共有しました。ちなみにロンドンでは「夜の市長」ではなく「ナイト・ツァー」(夜の皇帝)と名付けています。
この「女帝」とも見える迫力あるかたは、エイミー・レイムさん。45歳。ラジオやテレビのパーソナリティ、コメディアン、ナイトライフについてのライターなどの経歴を持つ方です。やはりナイトライフ業界で発言力のある人、広報的にもパンチのある人が選ばれているようです。
実は、日本でも渋谷区が「夜の観光大使=ナイト・アンバサダー」が誕生させています。ヒップホップアーティストのZeebra(ジーブラ)さんが任命されたのですが、この方は、「クラブとクラブカルチャーを守る会」という団体を結成し、街のゴミ拾いや、マナー向上を呼び掛け、クラブに対する悪いイメージの払しょくを目指してきた人です。
経済や街の活性化、観光客対策に有効とも見える「ナイト・エンタテインメント=夜遊び」ですが、地域や住民とどう折り合いをつけて、みんなが納得する形で育てていくか、様々な試みが始まっているようです。
最後に神奈川県の観光について。
日本全体の外国人観光客の訪問率。日本を訪れた観光客のうちどれくらいが訪問するかという割合です。
1位は東京都で、48.2%。神奈川県は6位で健闘しているのですが、9.6%です。昼間だけでなく泊まって、夜も楽しんでもらうためには、やはり「夜のエンタテインメント」が必要かもしれません。横浜近辺には、美術館、動物園、水族館、遊園地もあります。元町や中華街、馬車道、野毛のような魅力的な繁華街もあります。働き方改革や人手不足の中で、ナイトタイム・エコノミーを実践するのは簡単ではないと思います。
しかし、横浜ならではのエンタテインメントが生まれたら、新しい文化の発信地として世界的に知られるかもしれません。ちなみに、横浜局が取材させて頂いたのですが、ツイッターやインスタグラムのビッグデータを使って、どの場所に外国人観光客が足を運んでいるかを、神奈川県が分析しているそうです。意外なところが見つかりました。川崎にある京浜伏見神社。京都の伏見神社の系列だそうですが、京都ほどではないのですが、赤い鳥居がずらっと並んでいます。
そして、観光客のお目当てがこれ。キツネの置物が108体あって、みんなかわいくてポーズが違う。これを見に訪れる外国人が多いそうです。インスタ映えするスポットかもしれません。それから人気の江ノ電ですが、江の島駅前にある車止めのポールに金属のスズメがついています。このスズメに駅の売店の女性店員の方が服を作って着せ、季節ごとに着替えさせていたら、それがカワイイと話題となって観光スポットになってしまいました。ここにも外国人観光客が目当てに来ます。
京都のように古い歴史や街並みがなければ観光客は来ない・・・ということでもないんだなと考えさせられました。動物やモノを人間のように可愛がり、気持ちを込めていく、そんな日本人の心情が観光資源となりうるのです。横浜にも意外な観光資源が潜んでいるかもしれません。冒頭で申し上げた「開港以来の横浜のドラマチックな歴史」なども、私から見るとまだまだストーリーがたくさんありそうです。さて、もし横浜で「夜の皇帝」を選ぶとしたら、どなたになるのでしょうか???
 横浜東ロータリークラブの中に候補者はいらっしゃるでしょうか。岡本会長など候補になられそうな気もします。
 「働き方改革」「人手不足」「安全や静寂を求める地元」など、ナイト・エンタテインメントを進めるためには課題が沢山ありそうですが、住む人も、訪れる人も楽しめる横浜ならではの文化と知恵が生まれることを願っています。NHKもぜひそうした動きを取材し、全国、あるいは世界に発信させて頂ければと思います。
 また最後になりますが、もし名刺を交換して頂けましたら、神奈川県に関するNHKの番組情報をメールでお送りしますので、ご関心のあるかたはぜひこの後、ご挨拶させて頂ければ幸いです。


活動報告一覧へ戻る

Top