活動報告

第6回例会卓話「事業承継税制について」

2018年08月10日

「事業承継税制について」
元国税局資産課税 税理士 近藤光夫様

〇 改正された事業承継税制のポイント
  税理士の近藤と申します。本日は、平成30年度の税制改正で抜本的に拡充されることになった贈与税、相続税の納税を猶予する事業承継税制について、そのポイントと留意点をかいつまんでお話しさせていただきます。
まずはこの改正の背景ですが、中小企業庁は次のように説明しています。
「中小企業における経営者年齢のピークの分布状況をみると、1995年(平成7年)47歳だったものが、20年後の2015年(平成27年)66歳となっています。経営者の平均引退年齢が70歳であることからすると、平成31年のピーク年齢は引退年齢になります。ところが、今後10年間、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は、全体380万社のうち約60%の245万人で、このうち約半数の120万~130万人の方は後継者を未決定の状況となっています。したがって現状の放置は中小企業の廃業の増加により地域経済にも深刻な打撃になると見込まれます。そこで今年度から、10年以内の時限措置ではありますが、税制面で税負担の大幅な軽減を図ることとしました。」というものです。
ところで、この事業承継を税制面から支援するため、既に平成21年度の税制改正で非上場株式を後継者へ贈与した場合や、相続が発生し後継者が非上場株式を取得した場合には、それぞれ贈与税と相続税の納税を猶予する税制が施行されています。本来この制度の活用が期待されてきたのですが、税負担や適用者に対する様々な課題もあるため、この事業承継税制の利用件数はまだまだ少ない状況となっています。ちなみに、相続税・贈与税の納税猶予適用の前提となる経済産業大臣の認定件数は、平成20年10月~平成28年8月までで相続税959件、贈与税626件に留まっています。
 では次に今申し上げた制度上の課題となっているものと、それが今回どのように見直されたかを大きく4点ご説明します。 
1点目は贈与株数の上限撤廃と納税猶予割合の拡大です。現状では後継者が贈与により取得した自社株式で、後継者自身が既に所有していた分を含め発行済議決権総数の3分の2までが上限となっています。また、相続税では後継者が取得した自社株式の80%部分までの額が猶予・免除される仕組みになっています。したがって、現状は贈与税と相続税を連続しますと80%×2/3≒53%に限定された納税猶予となっています。
これを贈与の対象となる株式数の上限の3分の2をはずして、議決権株式のすべての件数を贈与税の納税猶予の対象とし、加えて相続税の納税猶予割合も80%ではなく100%にするというものです。これにより、贈与しても、また、その後相続が発生しても税負担が0で事業承継が可能になることになります。
2点目は後継者への事業承継可能ケースの拡大です。贈与税の納税猶予はこれまで先代経営者からの贈与に限定していましたが、これを代表者を含む複数の者(例、父、母)からの贈与も承継に含むことに拡大されました。また、後継者(受贈者)の要件はこれまで一社一人の後継者に限定していましたが、議決権保有の要件は有るものの、例えば父から長男甲、二男乙へと複数の者で最大3人まで可能となりました。
3点目は猶予が確定する雇用確保要件の緩和です。これまで雇用確保がこの制度の目的の一つであることから、雇用の8割以上を5年間平均で維持する必要がありましたが、(満たない場合は、猶予税額が確定し、利子税とともに納付が必要)今後、満たせなかった理由書を都道府県に提出すれば猶予が継続されることになりました。
4点目は経営環境の変化に応じた減免制度が設けられました。現行では、後継者が自主廃業や売却を行う際、経営環境の変化で株価が下落しても、事業承継した時の株価を基に、贈与税、相続税を納税しなければならない仕組みになっていました。これを自主廃業や売却を行う際、売却額や廃業時の評価額を基に納税額を再計算し、事業承継時の株価を基に計算された納税額との差額を減免可能とすることで将来の不安を軽減することになりました。以上が主な4つのポイントとなります。    
一方、留意しなければならない点として、長期にわたる報告義務、届出義務があります。この事業承継税制を適用する場合、納税猶予を継続していくため、贈与等の申告期限の翌日から5年間は、1年毎に都県知事への報告書の提出と税務署長への継続届出書の提出が必要になること、また、5年経過後も死亡等により納税期限が確定する日まで3年毎に税務署長への継続届出書の提出が必要であることが挙げられます。このように、長期にわたり納税猶予を継続するための手続きを履行していかなければならないという面にも配意が必要です。
今回の事業承継税制の改正は時限立法の特例です。まず第1ステップは特例期間である今後5年以内に経営承継計画を提出すること、そして第2ステップとして、10年以内に原則として株式贈与から入ることになると思われます。まだ、この特例は始まったばかりですから、この際、自社株の評価を前提に、将来の相続時の納税資金の手当てや、この猶予制度の厳格な継続手続きなども含めて、顧問の税理士さんとじっくり検討されることをお勧めします。本日のお話しが少しでもそのお役に立てば幸いです。


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